御茶ノ水

宿にとりあえず荷物を預けて、向かった先は御茶ノ水。二年もお預けをくらうと、ただおいしく食べるというシンプルな行為のシンプルな喜びは、時として決戦である。俺の舌が勝つか、やつの腕が勝つか。さあ、勝負だ、四川一貫。やたら長い行列が見えたので、コノヤロー!と思うが、それは隣のおにぎり屋さんだった。肩すかし。店は狭い。最大収容人数18人。相席となる。座ったテーブルは、メニューには載ってない10年通って初めて注文できるという裏メニューを頼む人、「今日は半ライスはいいや」というだけでメニューが決まる人、中華丼にそれがいつもの動作であるかのように酢をかけて食べる人と同じ。常連に囲まれては、裏メニューを堂々と頼む勇気はなく、おとなしくおすすめメニューのタンタン麺にしたのだった。からし、というらしい。目の前に「からし」が到着。戦いのはじまりである。一口目。余裕。こういうのならまだ俺も作れる。二口目三口目…。途中からタンタン麺から守勢に回りだした。やつが攻めているわけではないのだ。代謝がよろしいので冬だというのに、額に汗してタンタン麺を食べる。僅差で負けた気がした。けして、うまい!わけではない。でも通いたい味だった。中国家庭料理の最高峰、うそではない。 東京で雲一つない青空を見たのはいつぶりだろうか。今日はあったかくていい。