そのお店

店の名前はわからないのだけど、なんとなく行かざるを得ず、渋々入ったそのお店はなかなかよかった。

とにかく何の予備知識もなく入れるような店構えではない。ドアが開いていて、お店の人以外誰もいなかったら、その日勇気さえあれば入れる気はするが、ドアが閉まっていたら、あるいは誰かがカウンターに座っていたら、俺に入る勇気はない。

そのお店は、夜に500円の夜ランチをやっていた。
ごはん、スープ、ちょっとしたおかずで500円。ごはんはおかわり自由。
その日のおかずは、揚げ野菜、豚バラのから揚げ、ちょっとサラダ、キムチ。

ケーキセットは480円。ソフトドリンクはなんでも選べる。ケーキは、mokuのケーキで、その日の「仕入れ」によっていろいろ選べる。ケーキは、冷蔵庫からケーキの箱を出してきて、「どれ食べますか?」と聞いてくれる。

お店の人が人見知りっぽく、距離をとってくれるのがありがたかった。気配を消してくれるところとか。タバコ吸うけど、まったく気にならない吸い方をする。

別の日、再び行こうと思い立ち、勇気を振り絞ってそのお店のところまできた。
ドアが閉まっていて、常連さんぽいOLが二人、スーツの男性が二人、カウンターに座っていた。
OLとサラリーマンと目が合った。お店の常連さんによくありがちだが、「私のテリトリーへようこそ」雰囲気を醸すのが苦手である。怖気づいてしまい、そのお店には入れなかった。

勇気のある日、またそのお店に行こうと思うだろう。お客が誰もいないことを祈っている。