想像でしかなかった作る側の視点から、いつものフロアが見えたんだ

昨日はとあるパーティーで、お店の厨房で料理を作る、という体験をした。

お客さんが来る前に道具や材料を搬入して、厨房で準備を始め、備える気分、きっと、ライブハウスデビューするバンドとかクラブDJもこんな気分なんだろうか、というくらい緊張した。厨房もいつもと違うから、なんとも落ち着かない。
何からすればいいやらもうわけわからず、10分くらい段取りを考えるが、とりあえず、ニンニクをみじん切りにして、フライパンに入れて、オリーブオイル入れてっていういつもの作業から始めると、不思議とだんだん緊張はほぐれてきて、自分と厨房がリンクしていくような、楽しい気分になってきた。厨房から、目の前のテーブル、その二つ後ろの席くらいまでなら俺の知覚が及ぶ範囲、そんなような。

メニューは、
・レタスとルッコラとサラダあかりのサラダ。キドニービーンズ添え
・蒲生産地鶏のカルパッチョのようなやつ
・カリフラワーと豚のラグーのスパゲキー
・地鶏の煮込み

材料は諸事情により、切るという作業を極力省くためにカットしてきたヤツをタッパーにつめて持ってきていたので、それをフライパンに入れて炒めたりするだけ。炒めるというか、ぐずぐずに煮るように炒めるのだけど。
厨房にある調理器具は、電磁調理器二台。普段なら炒めるだけの、その炒めたりするのが難しい。でも、道具云々で料理できなくなるほど、私はヤワではない。
最初に作り始めたのはメインの地鶏の煮込みから。鶏モモはゆっくり焼かないと、硬くなってしまう。いちばん時間がかかる料理だ。

料理をしているところをのぞきこまれたり。ライブな感じ。

席がうまってきて、サポートしてくれる友達にサラダ盛ってもらって、パーティーというか、普通に食事、開始。ルッコラとサラダあかり(生食用ほうれん草)は自家製。キドニービーンズは朝煮たやつ。好評。ルッコラには自信があったし。
続いて、カルパッチョ。地鶏刺しをEVオリーブオイルと塩とバルサミコカルパッチョ仕立てで食べてみようという試み。私、カルパッチョは食べるばかりで作ったことないのだが、ぶっつけ本番でお客さんに食べさそう、と。いつもはどべっ!どばっ!と適当にやっているが、今回はしっかり塩とEVオリーブオイルをボールで少し撹拌して、バルサミコ
サラダとカルパッチョのテーマは「いい素材は料理人を助ける」で、サラダは前述の二つの野菜が、カルパッチョではバルサミコが厳選素材だったのだが、地鶏刺し用の肉、おいしいとこのやつで、「肉が柔らかい!」と狙いとは別のところで感動する方もいた。

自宅から持参したフライパンが電磁調理器非対応だった。動くと思っていたので、一瞬パニックになるが、お店のフライパン借りて、調理続行。
ほんとはシッカリ焼き色をつけないとおいしくない料理なのだが、フライパンのサイズは小さくなったし、短気起こして火力上げてガンガン焼くのはよくない料理で火力も上げられない。
あとでオーナーと語ったことだけど、「せめて、この焼き色つけてくるまではやってきたほうがスムーズでよかったかもね」ということだった。
しばらく、鶏モモ肉が焼けていく様子を見守る以外に何もできない時間帯が続く。やりきれない。間つなぎにグリッシーニをだしてもらう。
鶏モモを別鍋に戻して、そこにパンチェッタを刻んだヤツを入れて炒め、白ワイン入れてセロリたまねぎにんじんをグズグズに炒めてたやつと鶏モモを戻し、えのきだけをかぶせて煮込みに入った段階で、「一旦、ソレ(フライパン)どかして、そろそろパスタいこうか。あとで煮込めばいいし」ということで、ラグーの鍋と麺茹でる鍋を火にかける。
お湯が沸かない…。フロアを見ると、お客さんたちはグリッシーニがりがりやりながら話に花が咲いているが、友達とちょこちょこ目があったりして、「きっとお腹すいてるよなぁ、段取り悪くてごめんよ」という申し訳ない気分になる。これでまずかったらコメントに困るよなぁ、とも。
麺は今回はリングイネ。実は、あまり好きではないタイプの麺。フィットチーネが一番好きなのだが、買ったお店では品切れだった。ペンネにしようかとも思ったが、オーナーがあまりペンネが好きじゃないとのことで、おいしいペンネを持ってはいたが、麺を選ぶ最初の段階でいちばんに切った。
ところがリングイネ、なかなか煮えないし…。
本当は、茹で上がった麺を一度アリオリで仕上げて、ソースと絡めてかき混ぜて乳化させたやつを出したかった。でも時間と機材の問題で断念。麺500gで5人分、とお店で習っていたが、実際に皿に盛ってみると、テーブルにいるお客さんの数と同じ、7人前だったので、一気にお出しする。
それまで、会話であふれかえっていたお店の中に、静寂が。何が起こったのかと思ったけど、スパゲキーがおいしかった様子。「なにしゃべってたっけ?」という人がいたり。料理人冥利につきる。
続いて、フライパンをもう一度火に掛けて煮込む。そして、重大な欠陥に気が付くことなく、出してしまう。塩、振り忘れ。でも、あとで聞いたらそれなりにおいしかったらしく、塩が入ってないとは思わなかったらしい。でも、失敗。
メインディッシュを出し終えて、とりあえず任務完了といった感じだった。
充実感よりも疲労が強く、あとで、「おいしかった、また作ってね」って言われてすごくうれしいなぁと思ったくらい。

あとで来たお客さんは手際よく出すことができてよかった。これは次回があるとすれば参考になることだ。時間が開いても暖めれば出せる料理、なら。あとから来たお客さんも、ホントは風邪引いて具合悪くて食欲なかったらしいが、でも食べちゃったそうだ。よかった。

人のお祝いの席なのに、誕生日をお祝いできたことより、自分が作ったごはんがおいしいと言われたことがまずうれしく、自分の料理が誕生日のいい雰囲気をぶち壊さなかったのがうれしかった。
とにかくまだまだ余裕がない。奥まで見えなきゃいけないの、手前のテーブルの様子しか分からなかったし。次回があるなら、もうちょい手際よくやりたいが、初回で自分で自信のあったやつを出してしまったので、大変なのは次からだ、と思った。