ドキュメンタリー(3)

これは、一人の男の過ちからはじまる悲しみのドキュメンタリーである。

■2007年3月1日午後23時54分
 男はメールを待っていた。
 メールは来るはず、いや、来るべきであるのを男は知っているのだ。
 でも、メールはいつものように遅れ気味で、一向に来る気配はない。
 人の生活についてどうこう言いたいわけではない。ただ、男は連絡事についてはマメなほうであり、他人にもTPOに応じて同程度のマメ加減を要求する男だった。来るはずのメールがこないこと、男はイライラしていた。

 何のメールが来るというのか。
 それは、オークションシステムからの「今回の取引に対する評価」のメールであり、無事に商品が落札者の手許に到着したという連絡のメールである。

 男は、panic buyをしたチケットを、オークションに出品したのだ。
 男は確実にチケットを売りたかったが、同時に二枚とも売りたかった。二枚とも買うとしたら、アツいファン。きっと、鹿児島県外からそんなファンは来るのではないか、男はそう考えた。そこで、アツいファンを装った紹介文を書くように努めた。バンドもののコミュニティの、チケット譲渡スレで見かけた「フロアに空きを作りたくないんで」というくだりが気に入り、それを採用した。アツいファンっぽい、そう思った。
 
 この際、価格を落とすことは仕方がなかった。ライブ友達から、RIP SLIMEの鹿児島のチケットをオークションに出したら、半値以下でしか売れなかったという話を聞いたことがあったため、適当な価格からスタートし、「せめてここまでは回収したい!」という価格をオークションを終わらせる落札価格として設定した。
 そして、出品して4日で問い合わせがあり、落札された。想定どおり、近県に住むアツいファンの女の子だった。

 あとは、スムーズに行く、そのはずだった。

 落札後、連絡がなかなかこない。やっと連絡が来たから、送付し。そろそろ到着するころと思ったら、住所間違ってないのに、「宛先不明」で帰ってきた。
 
 再送する際には、不安になり配達記録郵便で送った。だから、男は到着したことを知りうることができたのだ。

 到着したのは確かなのだ。受け取ったかどうかはこの際、感知するところではない…

 そう思ったが、男は、ライブの日当日、落札者にオークションのシステムからメールをした。

 …ものすごく無邪気なメールが帰ってきた。

 

 男は、TPOに応じてマメな連絡を要求する男である。
 インターネットは高速回線だが、運用する人が必ずしもその高速回線を利用するとは限らない。

 男は、罵りたい気持ちと、チケットが無事に到着した安堵感の混ざり合った気持ちを釈然とさせようとしたが、次第に疲れてしまい、いちばん最初の反省に立ち返ったのだ。

 次はしっかり確認してチケットを取ろう。